イントロダクション

平成『ガメラ』シリーズ(1995~1999)・『デスノート』(2006)の金子修介監督と歴史美術研究家の宮下玄覇共同監督が放つ“新”戦国時代劇『信虎』。黒澤映画を彷彿【ほうふつ】とさせる本格時代劇でありながら、随所に〝本物〟へのこだわりが詰まった、意欲的・野心的な作品に仕上がった。これまでにない新感覚のテイストを併せ持ち、作り物である時代劇を見ているというより、あたかも時代の一場面を目撃していると錯覚させるかのようなリアルさが、本作最大の特色といえるだろう。

戦国の名将 武田信玄の父・信虎は信玄によって追放され、駿河を経て京に移り、足利将軍家の奉公衆となる。追放より30年の時が流れた元亀4年(1573)、信玄が危篤に陥ったことを知った信虎は、再び武田家にて復権するため甲斐への帰国を試みるも、信濃において勝頼とその寵臣【ちょうしん】に阻まれる。信虎は、織田信長との決戦にはやる勝頼の暴走を止められるのか。齢【よわい】80の「虎」が、武田家存続のため最後の知略を巡らせる――。

主演の寺田 農は、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』(1986)のムスカ大佐の声優として知られ、また数々の大河ドラマなどの時代劇作品に出演し、相米慎二監督『ラブホテル』(1985)以来36年ぶりの主演作。寺田の演技は、まるで信虎が乗り移ったかのように迫力に満ちている。谷村美月がヒロインのお直を美しく演じるほか、榎木孝明、永島敏行、渡辺裕之らベテラン俳優が重要人物として出演している。また矢野聖人、荒井敦史、石垣佑磨の若手俳優も戦国乱世の激動の時代を生き抜く姿を演じ、豪華な布陣となっている。なお、本作は『影武者』の織田信長役でデビューした隆 大介の遺作であり、彼に捧げられている。  

本作の音楽を担当したのは、『影武者』(1980)など後期 黒澤明作品や今村 昌平の一連の作品に携わった池辺 晋一郎。撮影は『恋人たち』(2015)の上野彰吾、照明の赤淳 一、衣裳の宮本まさ江、特殊メイクスーパーバイザーの江川悦子、美術・装飾の籠尾和人、VFXのオダイッセイら、日本映画の最高峰の叡智を結集した。武田氏研究の第一人者・平山 優も武田家考証として参加している。共同監督の宮下は、戦国時代を忠実に再現するために髷【まげ】・衣裳・甲冑・旗・馬・所作・音などディティールに徹底的にこだわった。

『影武者』(1980)より40年余、『天と地と』(1990)より30年余。2021年は武田信玄生誕500年、2022年は武田信玄450回忌の記念イヤーである。

あらすじ

武田信虎入道(寺田 農)は息子・信玄(永島敏行)に甲斐国を追放された後、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。元亀4年(1573)、すでに80歳になっていた信虎は、信玄の上洛を心待ちにしていたが、武田軍が国に兵を引き、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権の好機と考えた信虎は、家老の土屋伝助(隆 大介)と清水式部丞(伊藤洋三郎)、末娘のお直(谷村美月)、側近の黒川新助(矢野聖人)、海賊衆、透破(忍者)、愛猿・勿来(なこそ)などを伴い、祖国・甲斐への帰国を目指す。途中、織田方に行く手を阻まれるも、やっとの思いで信濃高遠城にたどり着いた信虎は、六男・武田逍遥軒(永島敏行・二役)に甲斐入国を拒まれる。信玄が他界し、勝頼が当主の座についたことを聞かされた信虎は、勝頼(荒井敦史)との面会を切望する。

そして3カ月後、ついに勝頼が高遠城に姿を現す。勝頼をはじめ、信虎の子・逍遥軒と一条信龍(杉浦太陽)、勝頼の取次役・跡部勝資(安藤一夫)と長坂釣閑斎(堀内正美)、信玄が育てた宿老たち、山県昌景(葛山信吾)・馬場信春(永倉大輔)・内藤昌秀(井田國彦)・春日弾正(川野太郎)が一堂に会することになる。信虎は居並ぶ宿老たちに、自分が国主に返り咲くことが武田家を存続させる道であることを説くが、織田との決戦にはやる勝頼と、跡部・長坂ら寵臣に却下される。

自らの無力さを思い知らされた信虎は、かつて信直(石垣佑磨)と名乗っていた頃に、身延山久遠寺の日伝上人(螢 雪次朗)から言われたことを思い出す。そして武田家を存続させることが自分の使命であると悟り、そのためにあらゆる手を尽くすのであった。上野(こうずけ)で武田攻めの最中だった上杉謙信(榎木孝明)が矛先を変えたのは、信虎からの書状に目を通したからであった。

お家存続のために最後の力を振り絞った信虎だったが、ついに寿命が尽き、娘のお直とお弌(左伴彩佳 AKB48)や旧臣・孕石源右衛門尉 (剛たつひと)たちに看取られて息を引き取る。

その後、勝頼の失政が続き、天正10年(1582)、織田信長(渡辺裕之)による武田攻めによって一門の木曽義昌ほか穴山信君(橋本一郎)が謀叛を起こし、勝頼は討死、妻の北の方(西川可奈子)も殉じ、武田家は滅亡する。以前、武田家臣・安左衛門尉(嘉門タツオ)が受けた神託が現実のものとなった。

信虎がこの世を去ってから百数十年後の元禄14年(1701)、甲斐武田家の一族で、五代将軍徳川綱吉の側用人・柳澤保明(後の吉保、柏原収史)は、四男坊・横手伊織(鳥越壮真)に、祖父と関係があった信虎の晩年の活躍を語る。この物語は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか――。

相 関 図

キャストプロフィール

寺田 農 / 武田信虎(無人斎道有)
TERADA Minori
Profile >
谷村美月 / お直
TANIMURA Mitsuki
Profile >
矢野聖人 / 黒川新助
YANO Masato
Profile >
荒井敦史 / 武田勝頼
ARAI Atsushi
Profile >
榎木孝明 / 上杉謙信
ENOKI Takaaki
Profile >
永島敏行 / 武田信玄・武田逍遥軒
NAGASHIMA Toshiyuki
Profile >
渡辺裕之 / 織田信長
WATANABE Hiroyuki
Profile >
隆 大介 / 土屋伝助
RYU Daisuke
Profile >
左伴彩佳 / お弌
HIDARITOMO Ayaka
Profile >
柏原収史 / 柳澤保明(吉保)
KASHIWABARA Shuji
Profile >
寺田 農 / 武田信虎(無人斎道有)
 
TERADA Minori
1942年生まれ。東京都出身。1961年、文学座附属演劇研究所に第1期生として入所。同年の『十日の菊』で初舞台を踏む。五所平之助監督『恐山の女』(1965)で映画デビューを飾り、日本テレビ『青春とはなんだ』(1965)『これが青春だ』(1967)に出演し注目を集める。岡本喜八監督『肉弾』(1968)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。以降も多数の作品に出演し、中でも岡本喜八監督(『赤毛』1969、『座頭市と用心棒』1970など)、実相寺昭雄監督(『無常』1970、『帝都物語』1988など)、相米慎二監督(『セーラー服と機関銃』1981、『ラブホテル』1985など)の常連俳優となる。ドラマ・映画のほか、ナレーター・声優としても活躍しており、特に宮崎駿監督『天空の城のラピュタ』(1986)のムスカ大佐役を務めたことで知られている。近年の出演作に、武正晴監督『嘘八百』(2018)、内藤瑛亮監督『ミスミソウ』(2018)、清水祟監督『犬鳴村』(2020)松村克弥監督『祈り ―幻に長崎を想う刻(とき)―』(2021)などがある。NHK大河ドラマ『徳川家康』(1983)明智光秀役、『独眼竜政宗』(1987)大内定綱役、『信長 KING OF ZIPANGU』(1992)・『江〜姫たちの戦国〜』(2011)浅井久政役で反骨の戦国武将を演じた。
谷村美月 / お直
 
TANIMURA Mitsuki
1990年生まれ。大阪府出身。2002年、NHK連続テレビ小説『まんてん』でデビュー。映画初出演にしてヒロインを演じた、塩田明彦監督『カナリア』(2005)で高崎映画祭新人女優賞、小林聖太郎監督『かぞくのひけつ』(2006)でおおさかシネマフェスティバル女優新人賞受賞。細田守監督『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009)などアニメ映画にも多数出演し、声優としても活躍している。主な出演作に、三池崇史監督『神様のパズル』(2008)、熊切和嘉監督『海炭市叙景』(2010)、藤井道人監督『幻肢』(2014)、松岡錠司監督『続・深夜食堂』(2016)、安達寛高監督『シライサン』(2020)などがある。時代劇では、テレビ東京『影武者 徳川家康』(2014)、NHK BSプレミアム『螢草 菜々の剣』(2019)などに主演している。
矢野聖人 / 黒川新助
 
YANO Masato
1991年生まれ。東京都出身。2010年に蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』オーディションでグランプリを獲得。俳優として活動を開始し、同年テレビドラマ『GOLD』でデビュー。以降、ドラマ『リーガル・ハイ』シリーズや『GTO』シリーズなどに出演。2011年、田中誠監督『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』で映画初出演。主な出演作に、石川淳一監督『エイプリルフールズ』(2015)、主演作である藤原和之監督『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』(2018)、久保茂昭監督『HiGH&LOW THE WORST』(2019)、タカハタ秀太監督『鳩の撃退法』(2021)などがある。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2020)では土岐頼純役を好演した。10月から放送中のフジテレビ月9ドラマ『ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート~』にレギュラー出演中。
荒井敦史 / 武田勝頼
 
ARAI Atsushi
1993年生まれ。埼玉県出身。2008年、第21回JUNONスーパーボーイコンテストでのビデオジェニック賞受賞をきっかけ芸能界デビュー。金子修介監督『ポールダンシングボーイ☆ず』(2011)で、映画デビューにして初主演を果たし、金子監督の指名を受け、次作『メサイア』(2011)でも主演を務めた。近年ではドラマ『水戸黄門』(2019)や、『まだ結婚できない男』(2019)、久保茂昭監督『HiGH&LOW THE WORST』(2019)など幅広い作品に出演してきている。他の主な出演作に、堤幸彦監督『真田十勇士』(2016)、作道雄監督『神さまの轍-CHECKPOINT OF THE LIFE-』(2018)、本木克英監督『居眠り磐音』(2019)などがある。テレビ時代劇では、NHK BSプレミアム『柳生一族の陰謀』(2020)で徳川忠長役を演じた。
榎木孝明 / 上杉謙信
 
ENOKI Takaaki
1956年生まれ。鹿児島県出身。1984年NHK連続テレビ小説『ロマンス』でデビュー。市川崑監督『天河伝説殺人事件』(1991)での浅見光彦役が好評を博し、フジテレビ系『浅見光彦シリーズ』でも浅見役を続投した。その後も行定 勲監督『春の雪』(2005)、五十嵐匠監督『半次郎』(主演・2010)など大作に数多く出演。上杉謙信役での出演は角川春樹監督『天と地と』(1990)以来2度目となる。ドラマ・映画のみならず、水彩画や旅行記・エッセイなど幅広い分野で活躍している。近年の主な出演作に、角川春樹監督『みをつくし料理帖』(2020)、田中光敏監督『天外者』(2020)などがある。NHK大河ドラマでは、『八代将軍吉宗』(1995)で柳沢吉保役、『真田丸』(2016)で穴山梅雪役を演じている。
永島敏行 / 武田信玄・武田逍遥軒
 
NAGASHIMA Toshiyuki
1956年生まれ。千葉県出身。1977年に鈴木則文監督『ドカベン』でデビュー。翌78年に、東陽一監督『サード』に主演し、日本アカデミー賞をはじめ数多くの新人賞を受賞する。1981年には根岸吉太郎監督『遠雷』で第24回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。その後も日本テレビドラマ『あきれた刑事』(1987)や金子修介監督『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)など様々なジャンルの作品に出演。俳優以外の活動として「マルシェ青空市場」を主催。秋田県立大学客員教授も務める。近年の主な出演作に、角川春樹監督『みをつくし料理帖』(2020)瀬々敬久監督『糸』(2020)などがある。NHK大河ドラマでは『風林火山』(2007)で村上義清役を演じた。
渡辺裕之 / 織田信長
 
WATANABE Hiroyuki
1955年生まれ。茨城県出身。1980年より芸能活動を開始し、1982年よりリポビタンDのCMに出演し人気を博す。同年和泉聖治監督『オン・ザ・ロード』で映画デビュー。代表作は、テレビドラマ『愛の嵐』『華の嵐』『夏の嵐』(1986−89)、平成ガメラシリーズ(1995−1999)など。ジョー・リンチ監督『エヴァリー』(2015)ではサルマ・ハエックと共演した。俳優のほか、スポーツマン、ミュージシャンとしても活躍している。近年の主な出演作に、大林宣彦監督『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(2020)、アレクサンドル・ドモガロフ・ジュニア監督『ハチとパルマの物語』(2021)などがある。テレビ時代劇ではTBS『武田信玄』(1991)で織田信長役、NHK大河ドラマ『葵 徳川三代』 (2000)で浅野幸長役、『利家とまつ~加賀百万石物語〜 (2002)で池田恒興役を演じた。
隆 大介 / 土屋伝助
 
RYU Daisuke
1957年生まれ。無名塾に第1期生として入塾し、1977年に岡本喜八監督『姿三四郎』でデビュー。黒澤明監督『影武者』(1980)でブルーリボン賞、及び日本アカデミー賞の新人賞を獲得。NHK大河ドラマ『峠の群像』(1982)ではエランドール新人賞を受賞した。その後、村野鐵太郎監督『遠野物語』(1982)に出演し、同監督『国東物語』(1985)では主演を務めた。1985年には黒澤明監督『乱』や小林正樹監督『食卓のない家』など、日本映画界の巨匠の作品に携わった。他に主な出演作に、橋本忍監督『幻の湖』(1982)、五社英雄監督『北の螢』(1984)、同監督『226』(1989)、大森一樹監督『継承盃』(1992)、石井聰亙監督『五条霊戦記 GOJOE』(2000)など。2021年4月11日没。テレビ時代劇では、NHK大河ドラマ『峠の群像』(1982)で浅野内匠頭役、NHK新大型時代劇『武蔵坊弁慶』(1986)で平知盛役を演じ話題となった。本作『信虎』が遺作となる。
左伴彩佳 / お弌
 
HIDARITOMO Ayaka
1998年生まれ。山梨県富士吉田市出身。2014年、アイドルグループAKB48・チーム8(山梨代表)のメンバーとしてデビュー。公式ニックネームは「ひだあや」。2017年、チーム再編成に伴い込山チームKの兼任が発表。「RESET」(2019)、「その雫は、未来へと繋がる虹になる」(2019)、「マジムリ学園 蕾-RAI-」(2021)数々の劇場公演やイベントに出演。本作『信虎』が初の映画出演となる。
柏原収史 / 柳澤保明(吉保)
 
KASHIWABARA Shuji
1978年生まれ。山梨県甲府市出身。1994年のTBSドラマ『人間失格〜たとえばぼくが死んだら』でデビュー。大林宣彦監督『あした』(1995)で映画初出演を飾り、黒木和雄監督『スリ』(2000)では日本映画批評家大賞新人賞を受賞。ミュージシャンとしての一面も持ち、バンド活動やアーティストへ楽曲提供も行っている。近年の主な出演作に、荻上直子監督『彼らが本気で編むときは』(2017)、ANARCHY監督『WALKING MAN』(2019)などがある。

スタッフ

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監督:金子 修介KANEKO Shusuke
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共同監督・脚本・美術・装飾・編集・時代考証・キャスティング:宮下 玄覇
MIYASHITA Harumasa
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音楽:池辺 晋一郎IKEBE Shinichiro
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撮影:上野 彰吾UENO Shogo
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武田家考証・字幕・ナレーション協力:平山 優HIRAYAMA Yu
監督:金子 修介
 
KANEKO Shusuke
1955年生まれ。東京都出身。大学卒業後、日活に入社。根岸吉太郎監督や森田芳光監督の作品で助監督を務める。『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(1984)で監督デビュー。同年、ヨコハマ映画祭新人監督賞受賞。『1999年の夏休み』(1988)がニューヨーク美術館ニューディレクターニューフィルムに選出、横浜映画祭監督賞。『ガメラ・大怪獣空中決戦』(1995)で第38回ブルーリボン監督賞、映画芸術誌邦画ベスト10第1位。『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)で第17回日本SF大賞。『ガメラ3 イリス覚醒』(1999)を含む平成『ガメラ』3部作が大ヒットし、怪獣映画に新風を吹き込む。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)、『デスノート』と『デスノート the Last name』(2006)が国内のみならず香港、韓国でも大ヒットし、ブリュッセル映画祭では観客賞を受賞。他に『1999年の夏休み』(1988)、『咬みつきたい』 (1991)、『クロスファイア』(2000)、『プライド』(2009)、『ばかもの』(2010)、『リンキングラブ』(2017)などでメガホンを取った。時代劇では、『あずみ2』(2005)、テレビドラマ『おそろし~三島屋変調百物語』(2014)に次いで『信虎』が3作目となる。
共同監督・脚本・美術・装飾・編集・
時代考証・キャスティング:

宮下 玄覇
 
MIYASHITA Harumasa
1973年生まれ。神奈川県出身。株式会社宮帯、株式会社宮帯出版社代表取締役。日本甲冑武具研究保存会評議員。宮帯文庫長。茶書研究会理事。歴史・甲冑・茶道書などを企画出版し、戦国武将追善茶会などのイベントを主宰。2014年の古田織部400年遠忌を機に、一般財団法人古田織部美術館を創設し館長に就任。温知会・古田織部流茶湯研究会会長として織部流茶道の普及・啓発に努めている。2015年、江戸時代前期に小堀遠州が造り、解体から140年間古材が眠っていた、日本一窓が多い茶室「擁翠亭(十三窓席)」を復原した。同年、東京・名古屋・京都の巡回展 「利休を超えた織部とは―?」を主催した。2021年には樂焼玉水美術館を開館。映像関連では2008年よりNHKプラネット近畿で毎年の大河ドラマ特別展の映像製作協力から始まり、武正晴監督『嘘八百』(2018)、続編『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020)では、古美術監修および茶道指導を行った。『信虎』で初の共同監督・脚本・プロデューサー等を務める。
音楽:池辺 晋一郎
 
IKEBE Shinichiro
1943年生まれ、水戸市出身。1967年東京藝術大学卒業。1971年同大学大学院修了。池内友次郎、矢代秋雄、三善 晃、島岡 譲に師事。1966年日本音楽コンクール第1位。同年音楽之友社室内楽曲作曲コンクール第1位。68年音楽之友社賞。以後ザルツブルクTVオペラ祭優秀賞、イタリア放送協会賞(3回)、国際エミー賞、芸術祭優秀賞(4回)、尾高賞(3回)、横浜文化賞、姫路市芸術文化大賞などを受賞。1997年NHK交響楽団・有馬賞、2002年放送文化賞、2004年紫綬褒章、2016年第24回渡邉暁雄音楽基金特別賞を受賞。2018年文化功労者に選出される。現在東京音楽大学名誉教授、東京オペラシティ・ミュージックディレクター、石川県立音楽堂・洋楽監督、せたがや文化財団音楽事業部音楽監督。ほか多くの文化団体の企画運営委員、顧問、評議員、音楽コンクール選考委員などを務める。 映画音楽では、黒澤明監督作品では、『影武者』(1980)以降、『乱』(1985)を除くすべての作品の音楽を担当、今村昌平、篠田正浩の後期作品も数多く手がけている。日本アカデミー賞では、優秀音楽賞を9回受賞、うち3回は最優秀音楽賞である(1984年・篠田正浩監督『瀬戸内少年野球団』、1990年・篠田正浩監督『少年時代』/黒澤 明監督『夢』/斎藤武市監督『流転の海』、2009年・木村大作監督『劔岳 点の記』)。また、毎日映画コンクールにおいても音楽賞を3回(1980年・『影武者』、1984年・『瀬戸内少年野球団』、1990年・『夢』、『少年時代』)受賞している。さらにカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した日本映画についていえば、『影武者』、今村昌平監督『楢山節考』(1983)、同『うなぎ』(1997)の3作連続して池辺が音楽を担当した作品であることは特筆すべきである。テレビドラマ・アニメでは『黄金の日々』(1978)、『未来少年コナン』(1978)、『独眼竜政宗』(1987)、『八代将軍吉宗』(1995)、『元禄繚乱』(1999)などがあり、そのほかにも多数の映画・ドラマや演劇など約500本で音楽を担当した。
撮影:上野 彰吾
 
UENO Shogo
1960年生まれ。前田米造カメラマンに師事、森田芳光監督『それから』(1985)、伊丹十三監督『マルサの女』(1987)、角川春樹監督『天と地と』(1990)等に携わる。2003年日活撮影所撮影部を退職後フリーとなり、映画、テレビの撮影を担当。現在、日本映画撮影監督協会(JSC)専務理事。主な担当作品に、崔 洋一監督『東京デラックス』(1995)、篠原哲雄監督『草の上の仕事』(1993)、 同『月とキャベツ』(1996)、同『天国の本屋~恋火~』(2004)、同『地下鉄(メトロ)に乗って』(2006)、同『スイート・ハート・チョコレート』(2013)、荻野洋一監督『ウイリアム・テロル,タイ・ブレイク』(1994)、橋口亮輔監督『渚のシンドバッド』(1995)、同『ハッシュ!』(2001)、同 『ぐるりのこと。』(2008)、『ゼンタイ』(2013)、 同『恋人たち』(2015)、富樫 森監督『ごめん』(2002)、荻上直子監督『バーバー吉野』(2004)、森 義隆監督『ひゃくはち』(2006)、園 子温監督『ちゃんと伝える』(2009)、谷口正晃監督『時をかける少女』(2010)、同『ミュジコフィリア』(2021)、朝原雄三監督『愛を積むひと』(2015)、菅原浩志監督『早咲きの花』(2006)、同『写真甲子園0.5秒の夏』(2017)、両沢和幸監督『みんな生きてる』(2021)などがある。
武田家考証・字幕・ナレーション協力:
平山 優
 
HIRAYAMA Yu
1964年生まれ。東京都出身。立教大学大学院文学研究科博士前期課程史学専攻(日本史)修了。専攻は日本中世史・近世史。山梨県埋蔵文化財センター文化財主事、山梨県史編纂室主査、山梨大学非常勤講師、山梨県教育庁学術文化財課主査、山梨県立博物館副主幹を経て、現在山梨県立中央高等学校教諭。2016年放送のNHK大河ドラマ『真田丸』時代考証担当。主要著書に、『戦国大名領国の基礎構造』(1999・校倉書房)、『川中島の戦い』上・下巻(2002・学研M文庫)、『長篠合戦と武田勝頼』(2014・吉川弘文館)、『検証長篠合戦』(2014・吉川弘文館)、『天正壬午の乱 増補改訂版』(2015・戎光祥出版)『武田氏滅亡』(2017・角川選書)、『戦国の忍び』(2020・角川新書)、『武田信虎』 (2019・戎光祥出版)、『武田三代 信虎・信玄・勝頼の史実に迫る』(2021・PHP新書)など多数。

コメント

「大河ドラマとは、全く違う戦国がそこにあった!」 感想はこれに尽きます。 メイクも美術も衣装も、とても新鮮でした。戦のシーンも、斬られる痛さや怖さが伝 わって来て、ドキドキしました。 いちばんかわいそうなのは、あのよく食べる少年。調べてみたら、本当にあんな感じ だったんですね。
三谷幸喜 ~KOKI Mitani~
歴史を目撃する貴重な体験。勉強になりました! わが先祖は信州諏訪家の出身。 武田勢でしたので他人事とは思えず、信虎に親近感が沸きました。
ヴィジュアリスト:手塚眞 
~MAKOTO Tezuka~
信虎とは何者か? 寺田農が風格でこたえ、歴史情報を濃密につみかさねる破格なか たりくちがそれをささえる。 時代劇というより新しい史劇。金子修介監督のたしかな技術による達成だ。
映画評論家:宇田川幸洋 
~KOYO Udagawa~
信虎目線でみごとに描ききった武田盛衰記  ふつう、武田信虎というと、悪逆無道の行為が行きすぎ、息子信玄によって駿河に追放されたみじめな武将といったイメージでとらえられている。しかも、身柄引き取り手だった今川義元が桶狭間で織田信長に討たれると、駿河にも居られず、上京し、高野山や西国を遍歴・流浪し、最後は、信濃高遠でひっそり生涯を閉じたとされている。甲斐から駿河へ追放された後は、その存在感は無きに等しい生涯だったというのが通説である。  ところが、今回の「信虎」はそうした通説を打破しようとする。その手がかりとなっているのが、永禄6年(1563)頃、信虎が京に上り、第13代将軍足利義輝の相伴衆(しょうばんしゅう)になっていることである。相伴衆というのは、将軍が諸大名を饗応するときに相伴を許される人のことで、それ相応の身分の出でないと務まらない。信虎は、戦国大名武田家の当主だった経歴をもっているわけで、将軍からも一目置かれる存在であった。  ただ、その後の信虎についてはほとんど史料がなく、信長の台頭にどう対処しようとしていたのかもわからない。どこまでが史実で、どこからがフィクションなのかがわからない演出はみごとというしかない。  いずれにせよ、信虎の目線で、戦国大名武田家の盛衰が一本の筋となり、信玄死後の勝頼の葛藤、家臣たちの動向など、戦国大名武田家の物語というだけでなく、戦国時代の人間模様をみごとに描ききった作品である。
戦国史研究家:小和田哲男 
~TETSUO Owada~
1944年生まれ。戦国史研究の第一人者。静岡大学名誉教授。日本城郭協会理事長。武田氏研究会会長。『甲陽軍鑑』の再評価者の一人。
あの男が帰ってきた――。誰も予想しなかった帰還を果たした一人の男、武田信虎がもたらした波紋は、戦国最強軍団に不協和音を奏でていく。最高の演技陣に美しいカメラワーク。令和の戦国映画はこれだ!
歴史小説作家:伊東 潤 ~JUN Ito~ 1960年生まれ。歴史小説作家。『武田家滅亡』(角川書店)でデビュー。『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞受賞。『峠越え』で第20回中山義秀文学賞受賞。直木賞候補5回。
映画『信虎』(以下、本作)は、息子信玄に甲斐を逐われた武田信虎が、元亀四年(一五七三)、織田信長に命を狙われ、京都から命からがら武田領国に帰還する顛末と、その死までの波乱に満ちた最晩年と、武田家の末路を描いた作品である。本作では、信虎が武田家存続に尽力しながらも、自らの寿命を悟り、その願いをある形で成し遂げるというストーリーになっている。もちろん、それらのほとんどはフィクションであるが、信虎と孫武田勝頼の対面をはじめ、いくつもの重要なシーンには、根拠となる史料が存在する。それは『甲陽軍鑑』である。本作は冒頭で、『甲陽軍鑑』の研究に生涯をかけ、その史料的価値の再評価を世に問う『甲陽軍鑑大成』(汲古書院、一九九五年)を完成させた、国文学者酒井憲二氏に捧げられている。この映画は各所で、『甲陽軍鑑』に記されているエピソードを織り込んでおり、ストーリーづくりは同書に大きく負っているといっても過言ではない。まさに、酒井へのオマージュともいえる内容になっていると思われる。本作は、『軍鑑』再評価の動きを意識しつつ、物語が編まれたといえるだろう。同書では、武田信虎は暴君、勝頼は信濃諏方氏の血筋を引く故に、父信玄の正当な後継者とはみなされぬ人物として描かれ、信玄こそが武田氏の屋台骨を作り上げた偉人という位置づけがなされている。それは、同書の原本が、勝頼への諫言の書として作成され、武田氏滅亡という波乱を経て、編纂・公刊された経緯を持つ故に、どうしても信虎、勝頼に厳しい記述が頻出せざるを得なかったためと推察される。映画にも登場するいくつもの場面は、まさに『軍鑑』の持つ、信玄礼賛、信虎・勝頼批判という通奏低音を、色濃く反映したものといえるだろう。天正二年(一五七四)二月中旬頃、信濃国高遠で、信虎と勝頼が対面したシーンは、『軍鑑』でも名場面として著名だ。この二人の対面や、信虎が武田領国に逃げ込んできたという逸話は、いずれも他の文書や記録では確認できず、すべては『軍鑑』に頼るほかない。しかし、同書に記された祖父と孫、そして重臣らとの息詰まるやりとりは、名場面の一つである。三十数年ぶりに帰国を果たした信虎は、旧知の人々と再会し、また代替わりこそすれ、かつて自らが統べていた家臣らの名字を耳にしたことで、それまで押さえ続けていた憤怒を爆発させてしまう。それが、孫勝頼の警戒と嫌悪を招き、重臣らからは老いたりとはいえ、変わらぬ暴君と認識され、故郷甲斐に帰国することすら許されぬ境遇を招き寄せてしまう。そしてまもなく、信虎の寿命は尽きるのである(天正二年三月五日歿)。史実の武田信虎の晩年は、将軍足利義昭の命を奉じ、近江国甲賀で反信長のための挙兵を画策したことや、『軍鑑』が描いたわずかな部分が知られるのみであるが、本作は、その断片をつなぎ合わせ、多くのフィクションを交えることで、武田家の存続を、どのような形であれ成就させたいと執念を燃やす老武将の気魂を、陰影深く描いている。それらは、本作の俳優陣による、静謐のなかに押し込められつつも、表出せざるをえぬ人間の業と執念とを、強烈に印象づける演技によって、観客に伝染することとなるだろう。『軍鑑』と映画の融合という試みが、果たしてどれほど成功したか、それは江湖の批評に委ねたい。
歴史学者:平山 優 
~YU Hirayama~
歴史ファン、戦国ファンにとって必見の映画だ。武田信玄の父、武田信虎が甲斐国を追われた後の晩年を描いた作品。信玄の死後、甲斐国への帰還を願う信虎だが、武田家老衆たちの反対で叶わない。高齢の故をもってと哀願し、また己なくして武田家はもたぬぞと総大将の地位を要求する信虎。往年の荒大将の失意の姿を寺田農は味わい深く表現する。対する家老衆には山県昌景ら武田四天王が勢揃いして歴史ファンを楽しませる。私が唸ったのは、武田勝頼の出頭人として力をふるった長坂釣閑斎。信虎の帰国希望を言を左右にしてはぐらかし、また時に深い同情を寄せて信虎の心を操る佞臣ぶりを見事に表現していた。演じた堀内正美は助演男優賞ものだ。またこの映画の見どころが合戦、乱闘シーンにあることは言を俟たない。テレビではお目にかかれない激しいシーンの連続で、気の弱い向きにはお勧めできない作品かも知れない。切腹シーンも見ごたえがある。本式の切腹がどういうものかを、しっかりと見せてくれる。時代劇の衰微が嘆かれて久しいが、このような本物感にあふれた作品が世に出されていくならば、その復活の日は遠くないと確信する。
歴史学者:笠谷和比古
~KAZUHIKO Kasaya~